課題:『核子構造』
1.講演者 大谷 宗久(杏林大学)
演題 「核子構造の基礎と格子QCDによる核子構造研究の現状」
概要:
ハドロンは、クォーク・グルーオンの複合粒子として複雑な構造を持ち、
その解明に向けて、さまざまな研究が理論と実験の両面においてなされてきた。
なかでも格子QCDシミュレーションは、強い相互作用の動力学を第一原理から
非摂動的にとりいれる計算手法として、ハドロンの静的性質やハドロン間
相互作用だけでなく、ハドロンの構造解析に対しても大きな役割を果たしてきた。
本講演では、核子構造の記述に際し用いられる手法や概念に対して、
導入された経緯や物理的意義を平易に解説した上で、パートン分布や形状因子、
およびそれらを一般化した諸量に対する物理的描像や、仮想コンプトン散乱実験
との関係を与えるとともに、格子QCDに基づく核子の構造研究の現状を概観し、
シミュレーションによって得られた結果と課題、および今後の展望について議論
する。
2.講演者 澤田 真也(IPNS/KEK)
演題 「J-PARCハドロン実験施設とそこでの核子構造研究の可能性」
概要:
核子あるいはハドロンの構造の研究はハドロン物理の中でも主要なテーマ
の一つです。核子構造はこれまで比較的高いエネルギーの加速器から生み
出されるミュオンなどのレプトン散乱や陽子−陽子散乱、陽子−原子核散乱
などで研究されてきました。一方、数10GeVから100GeV程度の比較的低い
エネルギーの陽子ビームを使うと、標的陽子の反クォーク構造について、
大きな Bjorken x の領域を調べられるという特徴があります。現在 Fermilab
の 120 GeV 陽子ビームを使った実験が始まろうとしていますし、J-PARCの
陽子ビームを使っての実験も提案されています。
今回の講演では、ハドロン実験施設や Fermilab での実験の紹介も行いながら
J-PARCハドロン実験施設での陽子ビームを使った実験の可能性について述べたい
と思います。核子あるいはハドロンの構造の研究にはこれ以外の可能性もある
でしょうが、それらの議論の端緒にもなればと思っています。