「J-PARCハドロンサロン」 のご案内
2009年めでたくJ-PARCが稼働を開始しました。今後この素晴らしい施設
において様々な発見が期待されます。ハドロン原子核分野の最初の重要
課題であるストレンジネス原子核物理やエキゾチックハドロンの研究に
おいてはすでに実験が始まりつつあります。ハドロンの質量起源の研究
についても着々と実験準備が進んでいます。理論的な研究に目を転じる
と、ストレンジネス核物理では格子QCDによるYN/YY相互作用の計算を始
めとして近年目覚しい発展が見られます。エキゾチックハドロン、ハド
ロンの質量起源、ハドロンのパートン構造等に関する理論研究も進展し
ています。このような理論の成果は、今後のJ-PARCの実験計画のヒント
を与え、逆に新しい実験データは理論を刺激することになります。
これまでハドロン原子核分野では、理論と実験が両輪となり分野が発
展してきました。J-PARCが始まった今、これまで以上に理論と実験と
の密な交流が大切になると思われます。そこで我々ハドロン原子核分
野において理論・実験を問わず、J-PARCで展開される物理に関係する
研究者が定期的に集まり議論が出来る場を設けたいと思います。
この集まり「J-PARCハドロンサロン」ですが、数ヶ月に一回のペースで
開催する予定です。毎回一つの研究課題を取り上げ、その課題に関する
セミナーをゆったりと聞き、じっくり議論が出来る場にしたいと考え
ています。基本的には一回の集まりは半日、取り上げた課題に関して
理論、実験の方一人ずつに幅広く話をしていただく予定です。また、
場合によっては一泊二日の小規模な研究会を行うことも考えています。
講演者は世話人から依頼しますが、皆様から講演者や議論の課題に関
して要望がありましたら世話人に積極的にご連絡下さい。また「最近
新しい結果が出たので報告したい」と言った申し出も歓迎します。
J-PARCハドロンサロンでは、J-PARCのハドロンホールにおいて行われ
るハドロン原子核物理の課題(理論、実験):
・ストレンジネス核物理
ハイパー核の構造と反応、YN/YY相互作用、K中間子原子核
・カイラル対称性の部分的回復に関する物理
原子核中でのρ、ω、Φ中間子の性質、η中間子原子核など
・エキゾチックハドロン
ペンタクォーク、Λ(1405)等のバリオン励起状態など
・ハドロンのパートン構造
反クォークのフレーバー依存性、核子スピン構造の起源など
を中心的に議論する予定ですが、これらにとらわれず関連する物理に
ついても議論したいと考えています。
さて第九回は『Ξ核、S=−2ハイパー核』を
テーマに取り上げ、
実験からは仲澤 和馬さん(岐阜大学)に
「グザイハイパー核とJ-PARC実験」、
理論からは山本 安夫さん(理研仁科センター)に
「Ξ核とΞN相互作用」、
といったタイトルでお話をしていただく予定です。
多くの方の積極的な参加をお待ちしております。
世話人 熊野 俊三、澤田 真也、高橋 俊行、土手 昭伸(KEK)
電子メール: JPARC-hadsalon(AT)ml.post.kek.jp [(AT)->@]
ホームページ: http://j-parc-th.kek.jp/JPARC-hadsalon/
============== J-PARCハドロンサロン (第九回)======================
日時:平成27年 8月 4日 13時30分〜16時30分
場所:KEK東海キャンパス 東海一号館 1階 116号室
1.講演者 仲澤 和馬 (岐阜大学)
演題 「グザイハイパー核とJ-PARC実験」
概要:
最近,E373(KEK-PS)のエマルションで,高速探査システムの試験中に,
グザイ粒子が窒素原子核に深く束縛したと単一に解釈される事象が初めて
検出されました[1]。このように原子状態より深いところでのグザイ粒子静
止吸収は,理論的にはa few percentと言われております[2]が,すでに千
例近くの事例を蓄積した我々にとっては,ごく自然の結果だと考えていま
す。この事例の議論とともに,平成28年度よりいよいよS=-2の物理に入る
J-PARCハドロンホールでのいくつかの実験について紹介いたします。
[1] K. Nakazawa et al., Prog. Theor. Exp. Phys. 2015, 033D02.
[2] C. J. Batty, E. Friedman, and A. Gall, Phys. Rev. C 59, 295 (1999).
2.講演者 山本 安夫 (理研仁科センター)
演題 「Ξ核とΞN相互作用」
概要:
大昔は、怪しげなエマルジョンイベントに基づいて、Ξ核ポテンシャルは
かなり深い引力であると考えられていた。E176実験で見出された2例の
twin Λ hypernucleiはかなり浅い引力を与えるが、解釈はユニークでは
なかった。同じ頃、(K-,K+)反応のスぺクトルが同程度の浅い引力ポテン
シャルを示唆することが指摘された。最近、E373エマルジョンデータの再
解析によって発見された「木曽イベント」によって、Ξ核の存在が同定さ
れ上記の浅いポテンシャルが確定された。
一方、SU3不変相互作用模型で引力的Ξ核ポテンシャルを与えることは容
易でなかった。Nijmegen modelsの場合、ΛN相互作用で成功を収めたNSC97
は、Σ核ポテンシャルが引力的であり、Ξ核ポテンシャルは強い斥力であ
るという、とんでもないモデルであった。
2000年代以降のExtended Soft-Core models (ESC)の展開で目指したゴール
は、ΛN、ΣN、ΞNの全体をデータと整合的にすることであった。その過程
での決定的なステップは、quark cluster modelによる記述の特徴(Pauli
forbidden states)をESCのmodelingに反映させたことであった。完成版の
ESC08cは、「木曽イベント」の発見に先立って提案されたものであるが、
そのΞN相互作用は確定されたΞ核ポテンシャルと整合的であった。ESC08c
による引力的Ξ核ポテンシャルの主要部分は、T=1 triplet ΞN chalnnel
におけるΞN-ΛΣ-ΣΣ tensor couplingによってもたらされ、大変興味深
い。
世話人
熊野 俊三、澤田 真也、高橋 俊行、土手 昭伸(KEK)
電子メール: JPARC-hadsalon(AT)ml.post.kek.jp [(AT)->@]
ホームページ: http://j-parc-th.kek.jp/JPARC-hadsalon/
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