課題:『最も基本的なK中間子原子核(いわゆる“K−pp”)』
1.講演者 市川 裕大 (日本原子力研究開発機構)
演題 「π中間子ビームを用いたK中間子原子核の実験的研究」
概要:
K中間子原子核とは反K中間子と原子核の強い相互作用による束縛状態で
す。この系に関しては、2002年の赤石・山崎による少数系のK中間子原子
核の理論予想以降、実験・理論両面から熱心に研究が進められているもの
の、その存否は未だ確定できていません。
ここで、K中間子原子核の中でも、最も単純な系だと考えられるK-ppに関
しては、静止K-反応を用いたFINUDA実験やpp反応を用いたDISTO実験から
K-ppと考えられ得る信号が観測されています。しかし、これらに関しては
それぞれ信号に対してK-ppを必要としない理論的解釈や解析手法に対する
問題点が指摘されています。そのため、K-ppの存否を確定するためには過
去の実験とは異なる反応を用いた実験結果が不可欠です。
その背景を踏まえ、J-PARCではd(π+, K+)反応を用いたE27実験、3He(K-,
n)反応を用いたE15実験という二つのK-ppの探索実験が遂行されました。
本講演ではE27実験の紹介をし、得られた結果について報告を行います。
2.講演者 土手 昭伸 (KEK理論センター)
演題 「K中間子原子核:最近の理論的研究状況」
概要:
ハドロン・ストレンジネス核物理において、反K中間子(Kbar={K-, K0bar}
)が内部に束縛した原子核(K中間子原子核)は、ホットなトピックの一
つである。現象論的に導かれた反K中間子・核子間ポテンシャルは非常に
引力的であり、反K中間子に核子が引き寄せられることで、原子核内に高
密度状態が形成されるかもしれない。しかも深く束縛することで主崩壊モ
ードが閉じてしまい、高密度状態を伴うK中間子原子核が準安定に存在し
得る可能性が考えられる。(赤石・山崎らが指摘したdeeply bound kaonic
nuclei)
本当にそんなエキゾチックなK中間子原子核が存在するのだろうか?そこ
でまずは最も基本的なK中間子原子核、いわゆる“K−pp”(正確には
KbarNN-πYN結合チャネル三体系)を、丁寧に調べようという流れでここ
10年近く理論・実験研究が進められてきた。“K−pp”は三体系である
が故、理論的には、様々な手法によって調べられ、近年“一応の”統一見
解は得られたように思える。
本講演では、K中間子原子核に期待される面白さを紹介したのち、特に
“K−pp”に関する理論研究の現状を詳しく説明する。またこれまで
に報告された実験結果との比較、考えられる解釈について述べる。そして
今後、K中間子原子核の研究において、理論・実験両サイドが解決してい
かねばならない問題点について、皆さんと議論をしたい。