課題:『Ξ核、S=−2ハイパー核』
1.講演者 仲澤 和馬 (岐阜大学)
演題 「グザイハイパー核とJ-PARC実験」
概要:
最近,E373(KEK-PS)のエマルションで,高速探査システムの試験中に,
グザイ粒子が窒素原子核に深く束縛したと単一に解釈される事象が初めて
検出されました[1]。このように原子状態より深いところでのグザイ粒子静
止吸収は,理論的にはa few percentと言われております[2]が,すでに千
例近くの事例を蓄積した我々にとっては,ごく自然の結果だと考えていま
す。この事例の議論とともに,平成28年度よりいよいよS=-2の物理に入る
J-PARCハドロンホールでのいくつかの実験について紹介いたします。
[1] K. Nakazawa et al., Prog. Theor. Exp. Phys. 2015, 033D02.
[2] C. J. Batty, E. Friedman, and A. Gall, Phys. Rev. C 59, 295 (1999).
2.講演者 山本 安夫 (理研仁科センター)
演題 「Ξ核とΞN相互作用」
概要:
大昔は、怪しげなエマルジョンイベントに基づいて、Ξ核ポテンシャルは
かなり深い引力であると考えられていた。E176実験で見出された2例の
twin Λ hypernucleiはかなり浅い引力を与えるが、解釈はユニークでは
なかった。同じ頃、(K-,K+)反応のスぺクトルが同程度の浅い引力ポテン
シャルを示唆することが指摘された。最近、E373エマルジョンデータの再
解析によって発見された「木曽イベント」によって、Ξ核の存在が同定さ
れ上記の浅いポテンシャルが確定された。
一方、SU3不変相互作用模型で引力的Ξ核ポテンシャルを与えることは容
易でなかった。Nijmegen modelsの場合、ΛN相互作用で成功を収めたNSC97
は、Σ核ポテンシャルが引力的であり、Ξ核ポテンシャルは強い斥力であ
るという、とんでもないモデルであった。
2000年代以降のExtended Soft-Core models (ESC)の展開で目指したゴール
は、ΛN、ΣN、ΞNの全体をデータと整合的にすることであった。その過程
での決定的なステップは、quark cluster modelによる記述の特徴(Pauli
forbidden states)をESCのmodelingに反映させたことであった。完成版の
ESC08cは、「木曽イベント」の発見に先立って提案されたものであるが、
そのΞN相互作用は確定されたΞ核ポテンシャルと整合的であった。ESC08c
による引力的Ξ核ポテンシャルの主要部分は、T=1 triplet ΞN chalnnel
におけるΞN-ΛΣ-ΣΣ tensor couplingによってもたらされ、大変興味深
い。